揉んでもなかなかほぐれない肩・腰・膝のコリ――自分でできるマッサージは?
私は、先月から家事代行会社の現場スタッフとして働き始めた。
これまで、主婦として培ってきたスキルを活かせるのではないかと思って始めた仕事だが、まだ慣れないことも多い。
代行して欲しいと依頼された家事を時間内に遂行するという契約なので、料理、掃除、洗濯など、その日によって仕事内容は変わる。
掃除の割合が多い日は、予想以上にかなりの重労働だ。

掃除機をかける時には中腰の姿勢になることも多い。
高いところの拭き掃除は肩にくるし、逆に床の拭き掃除は腰にくる。雑誌や新聞といった重い紙ゴミの処分も腰にこたえる作業だ。
家事はこれまで何十年も毎日やってきた経験があるからと始めてはみたものの、プロとしてサービスを提供するのはなかなか大変なことなのだと気付かされた。
それに、自分の家と他人の家では勝手が違う。
特につらいのが、エアコンの設定温度だ。
基本的にお客さまのご自宅へ伺って作業することになるので、室温の設定温度はお客さま次第だ。
あらためて、「自分は冷え性だったんだ」と気が付いた。
これまで専業主婦だった私は、日中、家に一人でいるときはエアコンの設定温度を自分で決めることができた。
夜は夫の設定温度に合わせなければならず、手足の冷えがつらくて眠れないと悩んでいたが、それも夜だけのことと我慢していた。
しかし、派遣先のどこへ行っても寒いと感じるということは、夫が暑がりなのではなく、自分の身体が冷えているということだろう。
最近、50歳の誕生日を迎えた私は、更年期世代だ。これまで特に気にしたことはなかったが、いつの間にかめぐりが悪くなっていたのかもしれない。
派遣先での業務を終えて、事務所に戻って来た私は冷えた手の指先を揉むようにして擦り合わせた。
今日の派遣先のお宅もキンキンに冷房を効かせていたから、足の爪先まで冷えきっていると感じる。
それに、身体のあちこちが痛んでいた。
今日は、高いところの拭き掃除が多かったので肩こりがひどい。
昨日は、床の拭き掃除が多かったから腰と膝がつらかった。
マッサージにでも寄って帰りたいところだけれど、そんなことをしたらせっかくパートで稼いだ意味がない。
思わず溜息を吐きながら自分で拳を作って、肩をトントンと叩いていると背後から声を掛けられた。

ワンタッチ式吸い玉――引っ張るマッサージでコリとめぐりを改善
「お疲れ様、やっぱり始めたばかりだと身体がきついわよね」
支店長だ。
「あ、お連れ様です。いえ、そんなことは……」
「隠さないでいいわよ。私もこの仕事を始めたばかりの頃は、やはり身体がつらくて大変だったのよ。だから、新人さんには、これを私からプレゼントすることにしているの」
そう言いながら支店長は、ロッカーから何かを取り出して手渡してくれた。
「え? それは何ですか?」

「これは『ワンタッチ式吸い玉』と言って、内から外へ引っ張るマッサージが自分で簡単にできる器具なのよ。私も同じものを自宅で愛用しているの。あ、もちろんこれはあなたのために用意した新品よ。4個入っているから、もしよかったら旦那さんと一緒に使ってみて」
「『ワンタッチ式吸い玉』……ですか?」
「人の手でマッサージする場合は、基本的に押すことしかできないでしょう?」
支店長は、自分の肩を指先で指圧するように揉んで見せる。
「そうですね」
「人の手で引っ張ろうとしても、限界があるじゃない?」
今度は反対に肩の肉を摘まんで見せる。
私も支店長の仕草を真似してみた。
確かに、押すことは自分の手でもできるし、ある程度の刺激が加わっていると感じられるが、引っ張る方はどうにも上手くいかない。
「この『ワンタッチ式吸い玉』は、人間の手では上手くできない引っ張るマッサージをするための器具なのよ。今から、使い方を簡単に説明するわね」
袋の中には2種類の大きさの「ワンタッチ式吸い玉」が入っている。
「腕を出して。肘の外側を上にして、こちらに伸ばしてくれる?」
支店長は、2種類のうち小さい方の「ワンタッチ式吸い玉」を私の肘の外側に置いた。
肘から手首側に指3本ほど寄った辺りだ。
「この辺りは、肩こりや腕の重だるさにいいと言われている『手三里』というツボなのよ。押してみて周りより痛いなと感じるところがツボだから。その上にこうやって『ワンタッチ式吸い玉』を置いてね。そうしたら、真ん中をシュッシュッと押していくの。するとこうやってカップが自然と肌に吸い付くのよ」
「面白いですね。ちょっと痛くて気持ちいい感じです」
「首にも貼ってあげるわ」
「ありがとうございます」

「『吸い玉』によるマッサージは昔から行われていたんだけど、これまでの『吸い玉』はガラス製のものが多くて、貼り付けるのにも火や電気が必要だったの。けれど、この『ワンタッチ式吸い玉』はシリコン製だから、こうやって押すだけで肌に貼り付くのよ」
「そうだったんですか。あ、動いても剥がれないですね」
「そのまま貼り付けた状態で5分待ってみて」
「経験したことのない不思議な感覚です。確かに外側へギューッと引っ張られているというか、吸われているというか……そういう感じがしますね」
――そして、5分後。
カップをはずして見ると、先ほど「ワンタッチ式吸い玉」を貼り付けた部分が紫色に変色していた。

「え……、すごい色になってますけど、これ、大丈夫なんですか……」
「長くても1週間から10日で肌の色は元に戻るから大丈夫よ。あなたはあまりめぐりが良くなかったみたいね」
「え、そうだったんですか?」
「この肌の色の変化でめぐりの状態が確認できるの。ほんのり桜色や薄い赤色なら、めぐりはあまり悪くなっていないということなの。逆に、濃い赤色や青紫色になる場合は、めぐりが滞っているというサインなのよ」
「冷えがつらいと思ったら、めぐりが滞っていたんですね。色に驚きましたが、そういうことだったんですか。短時間でも、なんだか付けてもらったところがすっきりした感じがします。ありがとうございます、今夜、さっそくコリのひどいところに使ってみます」
「あ、足裏に使うのも気持ちがいいからやってみてね」
「はい」
シリコン製のワンタッチ式吸い玉なら中央を押すだけで誰でも簡単に装着できる
その日の夜。
帰宅した夫に説明をすると、最近肩こりに悩んでいるという夫も興味津々だった。
「へえ、面白いな。そう言えば、昔、スポーツ選手の肌が丸く変色しているのを見たことがあるよ。なんだろうと思っていたんだが、『吸い玉』で身体をケアしていたんだろうな。今は、こんなふうに誰でも簡単にマッサージできる器具があるのか。俺も、一日中パソコンを使ってるから、肩こりがひどいんだよ。ちょっと肩に貼り付けてみてくれないか」

「わかったわ。私も、ちょっと足裏に使ってみる。足は第二の心臓だから、足をマッサージしてコリをほぐすといいって支店長に教えてもらったの」
支店長から教わった通りの手順で、マッサージしたい部分に置いて「ワンタッチ式吸い玉」の中央部を押すと、肌に簡単に貼り付けることができた。
「外側に引っ張られて少し痛いけれど、ポカポカとしてなんだか気持ちがいいなあ。このまま眠ってしまいそうだ……」
「足裏も、ちょっと痛いけど気持ちいいわ。確かに人間の手ではこんなふうに引っ張るマッサージはできないわね」

今回は15分間貼り付けてから剥がしてみた。
二人とも貼り付けた所の肌が紫色に変色している。
「私たち、こんなにめぐりがよくなかったのね」
「これは、健康のためにもしばらく継続して使ってみた方がいいかもしれないな。今度は俺も足に使ってみていいか。座りっぱなしだから足もこっているんだ」
「いいわよ。じゃあ、私の方は、肩に貼り付けてくれる?」
その後も二人で寝る直前まで、「ワンタッチ式吸い玉」でのマッサージをいろいろと試してみたのだった。

翌日、出勤した私は、支店長に昨日のお礼を伝えた。
「どうもありがとうございます。夫ともども、すっかり『ワンタッチ式吸い玉』のファンになりました。あの引っ張られる感じが経験したことのない感覚で……、使うとスーッっとするんですよね。結局、10個入った『充実セット』を自分たちでも注文してみたんです。これから、毎晩、継続して使ってみることにします」
「喜んでもらえてよかったわ。これで、バリバリ働いてもらえそうね」
「はい、頑張ります」
――それから、1ヶ月経った夕方。
仕事を終え事務所に戻って来た時の冷えやコリは、1ヶ月前に比べて随分と楽になったと感じている。
「支店長、『ワンタッチ式吸い玉』をプレゼントしてくださって、どうもありがとうございました。おかげで最近は随分とコリがほぐれたと感じています。最初はカップをはずすと紫色になっていたのが、最近は桜色になってきましたよ。めぐりが改善されたんでしょうね」
「お役に立ててよかったわ」
「おかげで夫婦二人ともコリや血行が改善されて、ウォーキングも始めたんです。この前の休日は、ちょっと遠出してハイキングにも行って来たんですよ。これは、その時のお土産です。もしよかったら、お礼にどうぞ」
「あら、どうもありがとう。仕事でもさらに活躍してもらえそうね」
「はい、もちろんです。仕事でも恩返しします」

「ワンタッチ式吸い玉」を使うようになってから、コリや血行が改善されただけではなく、夫婦仲も改善されたように思う。毎日、「ワンタッチ式吸い玉」を貼り合うことがきっかけで夫婦の会話も弾むようになったのだ。
肩こりや足のだるさに悩んでいた夫は、近頃はすっかりインドア派になってしまっていたから、二人でハイキングに出かけたのなんて数年ぶりのことだった。
これから、仕事はもちろん、充実したプライベートも送れそうだ。
※この物語は使用した方々の感想を元に作成したフィクションであり、作中の登場人物や団体名はすべて架空のものです。また、効果の感じ方には個人差がございます。