コロナ禍で落ち込みがちな気分をリフレッシュするためにも、天然の香りを楽しみながら認知症を予防できるなら、一石二鳥です。
早速、日々の生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。
アロマで認知症が予防できるってホント?
「できることなら人生最後の日まで、自分で自分のことはわかっていたい」
誰もが願うことですが、認知症は、長生きするほど罹患する可能性は高くなります。
ところが、脳科学の研究が画期的に進んだことで、認知症の治療や予防に関しては明るいニュースがあるのをご存知でしょうか?
2004年に嗅覚受容体の存在が証明されてから、嗅覚の研究が著しく発展しています。嬉しいことに、アロマの香りが認知症の治療と予防に効果があることがわかってきたのです。
アロマテラピーとは
「アロマ」はラテン語で「芳香、香り」という意味で、「治療、療法」の「テラピー」を組み合わせた造語が「アロマテラピー」です。
アロマテラピーは、植物から抽出した香り成分である精油(エッセンシャルオイル)を使って、その香りと効能で美容や健康の増進、リラクゼーション、スポーツ、介護や医療、予防医学に役立てる自然療法です。
精油は、植物の花や葉、果皮、根などを蒸したり、皮を搾ったり様々な方法で抽出したもので、有効成分を高濃度に含んだ揮発性の芳香物質です。
各植物によってそれぞれ特有の香りと効能があり、現在、約250~300種類の精油があると言われています。
主な使い方では、次のようなものがあります。
芳香浴法…リラックスやリフレッシュのために、拡散した香りを楽しみます。アロマキャンドル、ディフューザー、ルームスプレーなど。
沐浴法…精油成分の入ったお湯につかり、手浴、足浴、半身浴、全身浴などでリラクゼーション効果と温浴効果の相乗効果が得られます。
吸入法…鼻や口から精油成分を吸い込みます。のどや呼吸器系の改善に。
湿布法…湯で温めた、あるいは水で冷やした布を体の一部に当てる方法。手軽にできる応急処置に。
トリートメント法…精油を混ぜたトリートメントオイルでマッサージ。
アロマが脳に影響を及ぼすメカニズム
精油の芳香成分が私たちの体に吸収されるには、主に3つのルートがあります。
ルート1 鼻から脳へ
ルート2 肺から血液を通って全身へ
ルート3 皮膚から毛細血管を流れる血液を通って全身へ
この3通りのルートから、アロマの有効成分は体内に入り、自律神経や内分泌系に働きかけて心身のバランスを整えてくれます。
中でもルート1は、鼻からダイレクトに脳内に伝達されるので、アロマテラピーにおいては最も重要なルート。認知症の治療や予防に効くとされるのは、アロマの香りが脳内の扁桃体や海馬などにダイレクトに刺激を与えるからなのです。
香りが鼻から脳に伝わるメカニズム
精油の香り成分が鼻の奥に入ると、その情報は電気的な信号に変わります。嗅神経に伝わる信号は脳に送られ、視床と大脳辺縁系に流れます。
情報は二つの方向に分かれ、一方は視床下部を経て大脳皮質の嗅覚野で「におい」として認識されます。アロマの香りが視床下部に働きかけることで、自律神経やホルモンのバランスを整えることができるのです。
もう一方は、情動反応を起こす扁桃体や、記憶を司る海馬のある大脳辺縁系につながります。
香りを嗅いだ時に、扁桃体では快・不快の感情などが刺激されたり、海馬では香りに関わる懐かしい記憶が甦ったりして、嗅覚からの経路は、精油の効能が脳内にダイレクトに影響を及ぼすことがわかっているのです。
イライラした時や、疲れた時に好きな香りを嗅いだら気分がすっきりしたり、リラックスできるのは、このような生理的なメカニズムが働くからです。
香りは脳をよみがえらせる!
私たちの体は、細胞の新陳代謝が常に行われていますが、中高年期に入ると再生される細胞数より、寿命を終えて死滅する細胞数の方が多くなり、体内の代謝が衰えていきます。
これが、いわゆる老化で、脳でも同じことが起こっています。
これまでは、脳の神経細胞は再生しないと考えられていましたが、神経科学の発達によって「老いても脳の神経は鍛えられる(脳神経の可塑性)」ということが判明しています。そのカギとなるのが、神経細胞ニューロンを結びつける接合部「シナプス」です。
そして、「におい」が脳神経のシナプスに与える刺激が注目されているのです。
脳内の話は非常に難しいので、携帯電話の通信ネットワークの例えを引用しましょう。
「ちょっと前は場所によっては電話がつながりにくかったけれど、中継基地が増設されて不便を感じなくなりました。これがシナプスの接合部の増加です。また、電話が集中するとかかりにくくなりますが、回線の容量を増やして解決できました。これが、シナプスを通過する情報を繰り返すことによる増強です。外部から受ける刺激の中でも、においは脳内の「回線の増設、増強」を促すので、記憶に大きな影響を与えると考えられています」(塩田清二著「香りはなぜ脳に効くのか」NHK出版部)
老化で脳神経の回路が切れてしまっても、香りの刺激により新しいシナプスを増やし、神経細胞のネットワークが再生することで、脳内回路はよみがえることがわかってきました。
アロマテラピーが認知機能の改善に効果
アロマについては、鳥取大学の神保太樹博士と浦上克哉教授の研究(2008年)から、アロマテラピーが認知機能の改善に効果があることがわかっています。
介護老人保健施設のアルツハイマー病を含む高齢者を対象に、28日間アロマ療法を実施したところ、抽象的思考力が改善され、やめると徐々に元の状態に戻ったのです。特別養護老人ホームに入居する高度アルツハイマーの高齢者に行った同様の調査でも改善が見られました。
二つの調査研究から、特にアルツハイマー患者に特有の見当識(場所や時間、自分が何者であるかを把握すること)に改善が見られたとのこと。
香りは直接、海馬のある大脳辺縁系に伝わりますから、香りを刺激として与えることで、新しい神経細胞が作られることが促進され、自己に対する見当識の改善が見られたと考えられています。
認知症予防のためのアロマ活用法
私たちの認知症予防のヒントになるのは、先の鳥取大学の研究です。
毎朝ローズマリーカンファーとレモンの精油を、夜は真性ラベンダーとオレンジスィートの精油を芳香浴で、それぞれ2時間ずつ行いました。朝に用いたローズマリーカンファーとレモンの精油は、交感神経を刺激して体を活動的な状態にして、集中力や記憶力を強化する作用が期待できます。
また、就寝前に使用したラベンダーとオレンジスィートは、鎮静作用があり、副交感神経が優位になることで不眠や不安の改善を促しました。
昼と夜に異なる精油を用いたのは、一日の生活リズムが、昼間は活動的に、夜は安心して眠りにつけるようにと調整するためです。
最近の調査結果では、昼間に交感神経を刺激する精油だけでも、認知症に効果があることがわかっています。
日々の生活にアロマを用いるお勧めの方法は?
この調査ではアロマディフューザーを使用したようですが、予防のため日々の生活に用いるには、もっとお手軽な方法もあります。
お勧めは、写真のようなアロマ用のストーン。
右は生活の木、左の石は無印良品のもので、筆者がだいぶ前に購入したものです。
最近では、もっとお洒落で香りの拡散効果が高いストーンやアロマウッドが販売されています。石や木に精油を1~2滴落として、自分の身の回りや枕元にしばらく置いて
香りを楽しみましょう。
マグカップなどにお湯を注ぎ、精油を1~2滴たらすのもお手軽です。
香りを持ち歩きたい方には、中に香りをしみ込ませるペンダントタイプのものも販売されています。インターネットで「アロマペンダント」を検索してみてください。
心身共にリラックス・脳内回路を健やかに
アロマの香りは、記憶を司る海馬を刺激するだけではありません。
脳の視床下部に直接働きかけることで自律神経やホルモンのバランスも整えてくれます。大脳辺縁系の扁桃体では情動に働きかけるので気分を快適にしてくれます。
緊張がほぐれ、気持ちが落ち着き、心身共にリラックスできることが脳内回路を健やかに保つことに役立っています。
このことを考えると、自分が心地よいと思える好きな香りを探してみるのも良いと思います。上記以外で人気があって、脳の活性化とリラックスに効果のある香りは、ベルガモットやグレープフルーツなどの柑橘系の精油、カモミールローマン、ゼラニウム、ユーカリなど。朝用、昼用とテーマ毎にいくつかの精油がブレンドされているものもあります。
<参考文献>
●<香り>はなぜ脳に効くのか―アロマセラピーと先端医療(塩田清二著・NHK出版部)
●健康長寿ネット・認知症のアロマ療法(公益財団法人健康長寿科学振興財団HP)
●認知症とアロマセラピー(鳥取大学発ベンチャー(株)ハイパーブレインHP)
●公益社団法人アロマ環境協会HP及びテキスト
ストレスマネジメント / 三浦真津美 先生
<活動内容>
自身の経験から、中高年・シニア世代は新たなライフ・ステージに向かうにあたって、弱りがちな心と体をケアすることが必要と思い、「エムズ・セルフケア」を設立。
ヨガをベースに、呼吸法、アロマ、セルフマッサージ、エクササイズ、メディテーションなど、様々な観点から、セルフケアやストレスマネージメントについて指導を行っている。
<所属>
エムズ・セルフケア