木曜日のお昼どき。東京・江東区の大島六丁目団地、その一角にあるコミュニティプラザ「カフェ06(ゼロロク)」には、今日も一人、また一人と人が集まってきます。

コミュニティプラザ カフェ06
〒136-0072 東京都江東区大島6丁目1
UR大島六丁目団地 6号棟1階
営業:火曜・木曜・第四土曜日(カフェ営業)
湯気の立つスープ、淹れたてのコーヒー、赤ちゃんの泣き声、そして笑い声。週に2日、たった3時間だけ開くこのカフェに、1回の営業で平均37人以上―多い日には50人近くが訪れます。
「孤独死が起きるかもしれないというような場所だった」という団地に、なぜこれだけの人が”自分から”足を運ぶのか。
2020年9月のオープンから5年半、運営の中心を担うお二人―団地に約50年暮らし自治会副会長も務める高橋久美子さんと、立ち上げを手がけた元コンサルタントの菊池清美さんを訪ねました。
「無料の集まりには行きたくない。でも、行く場所は欲しい」
そもそも、なぜ「カフェ」だったのでしょうか。
立ち上げ前、菊池さんたちは住民を集めてワークショップを開き、「どんな場所なら来たいですか」と尋ねて回りました。すると、多くの人がこう言ったのだそうです。
「自治体が無料でやっているような高齢者向けの集まりには、行きたくない。でも、行きたい場所は欲しい。お金を出してでも、美味しいものが食べられるなら行くよ」
「支えられる対象」として扱われるのは、誰だってちょっと気が引けるもの。お客さんとして対価を払い、美味しいものをいただく―その”普通さ”こそが、かえって足を運びやすくするのだと、菊池さんは話します。
だからカフェ06の目的は、あくまで「人に来てもらうこと」。カフェは、そのための入り口なのです。
いちばんの自慢は、一杯のスープ
「コミュニティカフェといっても、ちゃんと”売り”をつくらないと、人は来てくれないんです」と高橋さん。
カフェ06の自慢は、なんといってもスープです。出汁をしっかり取った優しい味。やわらかく煮込んであるので、離乳食の赤ちゃんから、歯の弱くなった方まで、誰でも美味しく食べられます。

「美味しいものがあれば、人は山奥にだって行く」 あれもこれもと欲張らず、まずは一点を磨く―そんな思いから生まれた、看板メニューです。コーヒーも、こうした場所にしては良い豆を使っているのだとか。「美味しいコーヒーがあれば、男性も来てくれるかも」という、ちょっとした作戦もあったそうです。
その作戦は見事に当たり、今では来店客のおよそ3割が男性。「どうやっているの」と、あちこちで驚かれる数字です。
迎えるのは、70代。「同世代」だから入りやすい
ここには、もうひとつ大切なひみつがあります。それは、スタッフの多くが70代だということ。
団地の同様の施設を研究で訪ね歩く学生さんが、こう言ったそうです。「ほかは、高齢者が多いのに、どこも高齢者が来ないと悩んでいた。でも、ここは違いますね」よその施設は、若い人がきびきびと運営する”カッコいい場所”が多く、かえって高齢の方が入りにくい。
その点、カフェ06のスタッフは、お客さんから見れば気心の知れた「同世代」。若い人にとっては「お母さん・おばあちゃん世代」でも、来る人にとっては同じ目線の仲間です。だからこそ、構えずに入ってこられる。
スタッフは18人ほど。なかには93歳で現役の方も。お客さんとおしゃべりしたり、一緒にまかないを食べたり。謝礼は時給240円―お給料というより「お駄賃」ですが、みんな生きがいを持って、いきいきと働いています。
自然に生まれた「ゆるやかな見守り」
通ううちに、お客さん同士にも変化が生まれました。
「最近あの人、来ないね。どうしたのかな」。誰に言われるでもなく、互いを気にかけ合う―そんなゆるやかな見守りが、いつのまにか根づいていったのです。
子育て中のお母さんも、育児休業の合間に立ち寄ります。赤ちゃんが泣いても、まわりはみんなニコニコ。スタッフが赤ちゃんを抱っこしているあいだに、「10分でも自分の時間をつくっておいで」とお母さんを送り出すこともあるそうです。
高齢の方、子育て中の親子、地域の人。年代も立場もばらばらの人たちが、自然に混じり合う。カフェ06は、そんな多世代の交差点になっています。
リアルとデジタル、どちらも「つながりの入り口」
人と会い、言葉を交わすことが、心と体の健康を支える―近年そう言われるようになりました。社会とのつながりが薄れていく「社会的フレイル」を防ぐうえで、こうした”通いの場”の意味は、ますます大きくなっています。
カフェ06では、認知症、とりわけ若い世代が発症する「若年性認知症」への取り組みにも力を入れています。大学の研究者や企業が、現場として足を運ぶことも。
そして、つながりの入り口は、リアルな場「カフェ06」だけではありません。
スマホやアプリを通じて、家にいながら誰かと言葉を交わすことも、立派な「つながり」です。足腰が弱って外出が難しくなっても、画面の向こうの仲間とは会い続けられる。
リアルな居場所で種をまき、デジタルでその縁を育てる。「カフェ06」のような場と、「おしるこ」のようなオンラインの安心コミュニティは、入り口こそ違えど、目指すところは同じなのかもしれません。
「どうせなら、誰かと」
カフェ06が大切にしているビジョンは、とてもシンプルです。
気軽にプラッと「いろんな人がやってきて、顔見知りになっていったら楽しいよね」
お住まいの近くにも、こんな居場所がきっとあるはずです。気になったら、まずは一歩、のぞいてみませんか。お茶を一杯飲むだけでも、新しい顔なじみができるかもしれません。
そして、もし「近くにそんな場所がない」と感じたら―高橋さんや菊池さんのように、つくる側・支える側にまわるという選択肢もあります。年齢は関係ありません。なにしろ、カフェ06では90代が現役なのですから。
商品・サービスを届ける事業者・支援者のみなさんへ
「カフェ06」の5年半には、シニア世代に「届く」ためのヒントが詰まっています。
- 「無料」より「普通」:支援の対象として扱うより、対価を払う一人のお客さんとして迎えるほうが、かえって足を運んでもらえる。
- 欲張らず、一点を磨く:あれもこれもではなく、わかりやすい”売り”(カフェ06ならスープ)を一つ立てる。
- 「同世代」が迎える安心感:担い手が利用者と同じ世代だと、入り口のハードルがぐっと下がる。
- 役割こそが、生きがい:シニアを「支えられる人」ではなく「出番のある人」として捉える。働く側の生きがいが、来る人の満足にもつながる。
- リアル×デジタルの二段構え:リアルな交流場所「通いの場」等を入り口に、その後はオンラインでの安心コミュニティでつながりを保つ。両方の設計が、長く続く関係をつくる。
「支えてあげる」のではなく、「一緒に楽しむ」。その姿勢が、シニア世代の心をいちばん動かすのかもしれません。

